MENU

読書録『芙蓉の人』

昨晩、読み始めたらうっかり明け方までかけて読み終えてしまった本。久々に時間を忘れるくらいのめり込みました。著者の新田次郎氏は現在公開中の映画『劔岳 点の記』を書いた人でもあります。

内容は、明治の半ばに野中到さん・千代子さん夫婦が、初の富士山の頂上での越冬気象観測を試みるという物語。これは実際にあったお話で、富士山観測所に勤務する気象庁の職員でもあった著者が、到さんや千代子さんの記した記録や日記などの文献をもとにして書いた小説です。

「富士山の頂上に気象観測所をつくってそこで毎日観測を続ければ天気予報は当たるようになる。が、しかし国はいきなりそんな無謀なことには金は出さない。それにはまず、誰かが実証しなければならない」
そう言って、当時、真冬に富士山登山することすら誰も成し得なかったことを一人でやりはじめた到。その到を影で支える妻、千代子。夏の間に大勢の人の力を借りてなんとか観測所を完成させた到は、その秋からたった一人で観測を始めるのですが、千代子はいつからか夫を助けたい一心で自分も後を追って登ることを決意します。言えば絶対に反対されるであろう到に内緒で。しかも、まだ幼い我が子を実家に預けて・・・。

今の世の中だったら、私一緒について行くわ~アナタ~♪的な奥さんはいくらでもいて、それが許される時代ですが、当時は女は家で待つのが仕事、耐えて耐えて耐え抜くことが美徳とされていた明治期。夫の仕事、ましてや富士山頂での気象観測を手伝うなんてことは、“あの奥さん頭がおかしくなっちゃったんじゃないの”と思われても仕方のないこと。特に千代子さんが登った10月ともなれば、富士山頂ははやくも雪に覆われている季節です。どういう格好で登るかということが大きな問題になるわけです。当時、女の人が男の格好、すなわち“洋服を着る”ということは、考えられない時代だったんだそうです。そんな時代に、まだまだ残る封建主義の殻を破って、夫の滞在している富士山頂に登ろうとした千代子さんてどれだけ心の強い、しっかりした人だったんだろうと思いました。

ゆきぴゅーは高山病で8合目でリタイヤしたのもふくめて過去3回富士山に登っているのですが、読み進めている途中、“この小説を読んでから登りたかった!”と何度も何度も思いました。次に登る機会があったら、野中夫妻への畏敬の念を持ちながら一歩一歩また違った登山になるだろうと思います。梅雨も明けていよいよ今年も富士山登山シーズンの到来ですが、登る予定の方もそうでない方もオススメの一冊ですの。

 芙蓉峰とは富士山のこと

この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • なんてタイムリーな!剱岳観て来たよ~ 封建的な明治後期のお話で、宮崎あおいが浅野忠信のおくさんをしおらしく演じておりました。
    あ、ちなみにね、この映画のエンドロールはきれいな山々の映像に、縦書きにスタッフの名前が左から右に流れて行って、だ~れも途中席を立ちませんでした。映画を作ったスタッフに敬意を表すというより、神々しい山々に感動していたって感じ?!山が私を呼んでいる~!!

  • さや吉さんへ

    そんなあなたにぜひ読んで頂きたい作品ですの。
    でも読み終わったら絶対に、
    「ゆきぴゅー富士山登ろう!」って誘ってくると思われ・・・・。

コメントする

目次